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updated(3rd) 01/28/2004


特集 : つかこうへいとその世界


(1)劇作家としてのつかこうへい
(2)小説家としてのつかこうへい


(1)劇作家としてのつかこうへい



今回の特集は劇作家・舞台演出家・小説家のつかこうへいです。
「BOOK」としては異例ですがこの人を語る上で演劇・舞台を外して語ることはできないのでまずはプロフィールも含めてつかこうへいの演劇について。

つかこうへい 戯曲シナリオ作品集(全4巻)
つかこうへい傑作選(一)〜(七)
戯曲・銀ちゃんが、逝く
熱海殺人事件 売春捜査官

*「COLUMN」の
【つかこうへいの舞台についてゴニョゴニョ 】
【観劇記 「飛龍伝」 演出:つかこうへい】
も合わせてご覧ください。


*入手別の表記について
再アップ(2004年1月28日)に際して、現在入手しやすい方法としてAmazon
での購入ページをリンクしなおしました。ただしこの特集を組むにあたり、僕が利用したのは公立図書館の貸し出し本が主で表記もそちらのデータを基にしておりますので、ご了承ください。

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かこうへい 略歴



1948年福岡生れ。劇作家、演出家、小説家。慶應義塾大学中退。つかこうへい事務所主宰。1974年 「熱海殺人事件」で第18回岸田國士戯曲賞受賞、若者に圧倒的な支持を得る。以後「蒲田行進曲」は小説でも発表し、映画化もされる。いわゆる新劇臭を取り払ったつか演劇は「つか以前、つか以降」の言葉を生んだ。


つかの演劇作法



つかの演劇はなによりも「肉体の語るもの」、スピード感にあふれた役者の身体そのものが発する「ことば」だ。セリフの言葉としてのリズム感、役者に「語らせる」ことを目的に上演のたびに大幅に基本設定までを入れ替え、おなじみの脚本を「同時代の」演劇として何度でも再生するさまはまさに「つかマジック」と言うにふさわしい。演出が非常に厳しいことでも知られ、つかの劇団で鍛えられたことは役者の世界では勲章である。 「熱海殺人事件」での風間杜夫、平田満、三浦洋一らがよく知られているが、近年では阿部寛もつかの舞台にたったことで新境地を開拓した。

何度も語られる貧困・差別・社会問題、言葉そのものへの執拗なまでのこだわりが彼が在日韓国人(本名は金峰雄)であり、母国語(韓国語)も自分では満足にしゃべれないためであることが明らかになったのは1980年代末。
その在日韓国人としての心情を「娘に語る祖国」で吐露し、つかの表現世界はさらに深化、広がりを見せる。
1982年つかこうへい劇団解散後、自らの劇団をもたないできたが、1994年北区つかこうへい劇団、1995年大分つかこうへい劇団と東西に新しい劇団をまったくの素の状態から立ち上げる。大分つかこうへい劇団は韓国での公演も成功させ、つかのフル回転はまだ続く。

なお、つかこうへいの劇作は上演のたびに大幅な改編が加えられているため「戯曲集」として出版されたものは、そのほんの一部を語るに過ぎない。生の舞台をみるのが一番なのだが、つかの語ろうとしたテーマ、言葉遊びを本の形で楽しむのもつかファンに許された楽しみだ。

主要作品タイトル



初級革命講座飛龍伝
戦争で死ねなかったお父さんのために
・松ケ浦ゴドー戒
いつも心に太陽を!
・熱海殺人事件
・寝とられ宗助
・ストリッパー物語
・広島に原爆を落とす日
・蒲田行進曲
幕末純情伝
・飛龍伝
リング・リング・リング
・蒲田行進曲完結編〜銀ちゃんが逝く

売春捜査官
・ロマンス
・熱海殺人事件〜サイコパス
二等兵物語
・新・飛龍伝
・長島茂雄殺人事件
・ロマンス2


題名
:
つかこうへい 戯曲シナリオ作品集
(全4巻)
著者 :
つかこうへい
出版社
:
白水社 
発行年
:
1987〜1996年
ジャンル
:
国内 / 小説・その他 / 戯曲集
入手別
:
△ amazon (第1巻、 第2巻、 第3巻、 第4巻 )

★感想


「つかこうへいの戯曲・映画シナリオ・テレビ台本を、現在書かれてあるもの及び将来書かれるものすべてにわたって収録していく予定」(解題による)の戯曲全集。
あとで出てくる「つかこうへい傑作選」と重複する作品もあるが、これは「その時の最新版の脚本」を収録しようとしたものなので、つか演劇のファンには読み応えのある本だと思う。

各巻の内容についてはamazonのデータをご参照下さい。





題名
:
つかこうへい傑作選(一)〜(七)
著者 :
つかこうへい
出版社
:
メディアファクトリー
発行年
:
1994年〜1996年
ジャンル
:
国内 / 小説・その他 / 戯曲集
入手別
:
△ / amazon / 

★感想


つかこうへいの著作は角川書店・角川文庫で入手できるものが多かったのですが、2002年秋現在、書店の店頭では見つけるのが難しい本が多いです。注文すればいいのですが。
そこでつかこうへいの全集をもう一つご紹介します。これも出版が若干古いので、新刊本で見つけるのは難しいかもしれませんが、公立図書館では置いてあるところもあるのではと思います。僕は7冊とも見つけました。


以下全7巻の内容を紹介します。この全集は小説と戯曲、エッセイをテーマに沿って収録した新編集版でここでの初出もあります。

第1巻:小説版「蒲田行進曲」、「銀ちゃんがゆく」、戯曲版「銀ちゃんが、逝く」
第2巻:エッセイ「つかへい腹黒日記」「つかへい腹黒日記Part2」「つかへい腹黒日記Part3」
第3巻:小説版「広島に原爆を落とす日」、「愛人刑事」
第4巻:エッセイ「傷つくことだけ上手になって」「つか版女大学」「つか版男の冠婚葬祭入門」
第5巻:小説版「ジャイアンツは負けない」「長島茂雄殺人事件」、戯曲版「長島茂雄殺人事件」
第6巻:戯曲版「郵便屋さんちょっと」「初級革命講座飛龍伝」、映画シナリオ版「菜の花配達便」、など7篇。
第7巻:戯曲版「寝取られ宗介」、映画シナリオ版「寝取られ宗介」、「薔薇ホテル」、小説版「かけおち」、「二代目はクリスチャン」



題名
:
戯曲・銀ちゃんが、逝く
蒲田行進曲完結篇
著者 :
つかこうへい
出版社
:
後述
発行年
:
1994年
ジャンル
:
国内 /小説・その他 / 戯曲
入手別
:
△ (現在、入手困難)

★感想

「蒲田行進曲」を全面的に書き直した決定版。
元になっているのはあとで紹介する「銀ちゃんが、ゆく」。
1994年初演。

「蒲田行進曲」から5年後。銀ちゃんと小夏の子ルリ子も5歳となった。しかしルリ子は新種の難病ウィルブランド病に侵されていた。銀ちゃんにもう1度新撰組の映画で「階段落ち」の話が来る。小夏も女優復帰し、沖田総司役で「銀ちゃんの土方歳三を斬る!」ことに。
二人の愛は今最終章を迎える。

舞台ならではの構成としては。
小夏の立ち回りが増えている。これはアクションのできるよい女優を得たためだろう。
銀ちゃんの先輩若山馬之助と歌舞伎の大物中村屋喜三郎というキャラクターが設定され、彼らの「業」も描くことで重層的な迫力のある舞台になっている。
逆にヤスの出番は大幅に減らされている。銀ちゃんと小夏、ルリ子の愛の葛藤に焦点を絞りたかったのだろう。ヤスはいじると重すぎるキャラクターだし、小説の方で充分に書き込んでいるので。

銀ちゃん、そして小夏演ずる「総司」が「死んでゆく娘」ルリ子に「男と女の愛」を語り、自らの身体をはってそれを証明していく様は舞台ならではの迫力だ。このセリフを直接ぶつけられたら「震える」しかないだろう。
そして衝撃のラスト・シーン。ここに「蒲田行進曲」は怒涛のフィナーレを迎える。


上記の「つかこうへい傑作選」(メディアファクトリー)の第1巻にも収録されています。



題名
:
熱海殺人事件 売春捜査官
著者 :
つかこうへい
出版社
:
メディアファクトリー
発行年
:
1996年
ジャンル
:
国内 /小説・その他 / 戯曲
入手別
:
△ amazon /

★感想


「熱海殺人事件」には基本構造がある。
まず舞台となるのが警視庁の某署の取調室の一室であること。容疑者大山金太郎、捜査側に木村伝兵衛部長刑事、部下のA刑事(何回か名前が変わっている)、応援でやってきた熊田留吉刑事、この4人しか基本的に登場しないこと。
大山は山口アイコという幼馴染の少女を殺してしまったが、その動機を取調室で「作り上げていく」こと。この部分は劇中劇で行う。
この基本構造だけを守って幾多のバリエーションを生んできたこの舞台。

今回の売りは「木村伝兵衛が女に!」。初演では大分つかこうへい劇団の由見あかりが演じたが、彼女に合わせて設定が大きく変わっている。伝兵衛が女になることで取調室は大山と熊田との擬似三角関係の舞台となり、事態はラブ・コメディーの様相を帯びる。A刑事(ここでは戸田刑事)がホモという設定になって大山にせまるのもすごい趣向だ。
そして動機。これが毎回凝っていて深刻なテーマなのだが、今回は九州の五島列島からやってきた山口アイコが五島の恩人と言われる在日朝鮮人李大全に売春させられていた。それを知った大山が、というもの。熱海殺人事件としては(殺人現場が熱海でこそないものの)原点に戻った感じでシンプルな設定だ。その分女木村木村伝兵衛(女になっても毒舌の強烈さ、下ネタ連発の「熱い女」であることに変わりはない)のド迫力、4人のスピーディな体技に観客の目はいく。僕はこれはたしか紀伊国屋ホールで見ました。熱演でした。
当時のコピー「いま義理と人情は、女がやっております。」も爽快!



(2)小説家としてのつかこうへい


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