ホームへ戻りますシネマトップへ updated(first) 03/17/2003 last updated


戦場のピアニスト (2002/フランス/ドイツ/ポーランド/イギリス)
監督  : ロマン・ポランスキー
出演  : エイドリアン・ブロディ、エミリア・フォックス、ミハウ・ジェブロフスキー、エド・ストッパード、モーリン・リップマン、フランク・フィンレイ、ジェシカ・ケイト・マイヤー、トーマス・クレッチマン、ルース・プラット、ロナン・ヴィバート、ヴァレンタイン・ペルカ


実在のユダヤ人ピアニスト、ウワディフスワ・シュピルマンの苦難の生涯を巨匠ロマン・ポランスキーが究極のリアリズムで描く、ヒリヒリするような物語。原題は「The Pianist」。

ウワディフ(エイドリアン・ブロディー)はワルシャワに住むラジオ局の専属ピアニスト。ユダヤ人の家族と貧しいながら穏やかに暮らしていたが、1939年のドイツ軍のポーランド侵攻で生活は一変する。ナチスによる「ユダヤ人迫害政策」により彼らの生活は徐々に圧迫を加えられ、荒んでいった。ユダヤ人の印として「六亡星」の腕章をつけることを強制され、道を歩いていてもSSに「ユダヤ人は轍を歩け」と命令され、理由なく殴られる、そんな日々。弟のヘンリク(エド・ストッパード)との対立も彼のこころに小さな棘となってつきささる。
1941年、ユダヤ政策は新たな段階に進み、ワルシャワの40万人のユダヤ人は「ゲットー」へと強制移住させられる。そこは徐々にSSの気分次第でユダヤ人が情け容赦なく殺されていく地獄のような「収容所」と化していった。ウワディフはそんな中でゲットーのカフェでのピアノ弾きを細々と続けるが。
ヘンリクが「ユダヤ人狩り」でつかまってしまい、ウワディフは鼻持ちならないユダヤ警察の友人ヘラーに頭を下げ、弟を釈放してもらう。
1942年、ドイツ人の雇用証明がないものは全員収容所に移送されると発表される。ウワディフはそれを得ようと奔走するが、父(フランク・フィンレイ)の分がどうしても手に入らず、一家は全員つかまってしまう。「死の収容所」行きの列車に乗せられようというときヘラーの配慮でウワディフはたった一人その場から逃げることに成功する。
だが家族を失い、ピアノを失った彼に残されていた希望はこの「敵地」で隠れ続けること、それだけだった。

第2次大戦中のホロコースト(ユダヤ人狩り)を描いた映画は数多くあるがこれはきわめつけかもしれない。とにかく人が死ぬ。それも感情的なヒロイックな効果はまるでなく、銃で、撃つ、それだけ。子供でも女でも関係ない。数多くの同胞の死の現場、死体を見続けたウワディフは段々と感情を失って、「ただそこにいる」だけの存在になってしまったかのようだ。ピアノも彼の救いにはならず、一家やまわりのユダヤ人の状況はひたすらに悪くなるばかりだ。ナチスのユダヤ人への差別が生理的なレベルにまで及んでいたことを(「まさに虫けらのように」扱う)、これほどまではっきりと見せてくれた映画は(僕には)初めてだ。
後半の展開を書くことは差し控えるが、「ひたすら無力で逃げ続けた男」はこの大戦を生き延び、コンサート・ピアニストとして名声を築き上げ、2000年まで天寿を全うしている。
ポランスキーの底力を見せ付けたおそるべき映画。
これは、怖い。


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