ホームへ戻ります updated(first) 07/12/2002 last updated


【元ちとせの「ワダツミの木」にまつわる想い出 】



「ワダツミの木」を初めて耳にしたのは今年の2月、ケーブルテレビで放送されていたMTV JAPANのPVだったと思う。
一聴してなんだか知らないけど心に「ガーン」ときた。聴いたことない曲なのに妙に懐かしい。
なんなんだ、これは?
それからしばらくして行きつけのHMVで「ワダツミの木」が試聴機にかかっていたので、そこに書いてあったリコメンド文を読んで愕然。
沖縄の島唄。これは知っていたけどアレンジ・キーボードが上田現さんだよ。
この時点で僕は冷静さを失いました。

上田現は知っている人は少ないと思いますが、1980年代末期の「バンドブーム」の頃からやっているパンク・スカコア・ミクスチャー・ロック・バンド、LAPPISHのキーボーディストです。
僕このバンド高校の頃めちゃくちゃ好きでした。
日比谷野外音楽堂や日本武道館にライヴ行きました。上田さんのことはヴォーカルのMAGUMIが「現ちゃん」って呼んでて、彼の独特な「含羞=照れ」を伴った言動ともども、そのキーボード・プレイも大好きでした。
そう気づいて聴くと「ワダツミの木」のキーボードのベースラインは「スッチャ、スッチャ」というあの現ちゃんの音だ。もっと言ってしまうとうるさくて早い曲の多いLAPPISHの中でも屈指の叙情的な曲「ハーメルン」に似ている! というのはファンの贔屓目によるものだろうか。
元ちとせの声が「島唄」を本格的に歌いこんだ末にできあがったすばらしいものであることももちろんだが、僕にとっては現ちゃんのサウンドが決定打になった。
そうそう、彼女は大阪のHMVでバイトしていたらしい。

それからというもの、この曲は町の至るところで聴いた。
バイト先(毎回現場が異なる外回りの仕事をしています)の所沢で拡声器から流れてきたり、ラジオでもかかっていたし、そんな状況は結局5月ぐらいまで続いたんじゃないかな。
その間、僕は心の中でニヤニヤしてました。少年の頃聞いた「ハーメルン」ともう一度出あったかのような幸福感に包まれながら。


そして今、元ちとせのメジャー・デビュー・アルバム「ハイヌミカゼ」が手元にある。

通して聞いてみると彼女の声は民謡調のものすごい伸びのある、いわば「古い」発声法なんだが、それをのせているサウンドそのものは西洋音楽的なメソッドを取り入れたとびっきりモダンな、今のJ-POPではそんなに珍しくもないものだ。若干生楽器の使用が目立つけど、その印象も控えめなものだし、あくまで「うた」の力で勝負という感じだ。
あえて似ているアルバムを挙げると鬼束ちひろの前作「インソムニア」になるだろうか。あれもロング・ヒットとなったが、「地味でいい素材」は意外とじっくりと浸透することも、ある。


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