ハワード・ヒューズヒコーキ物語
藤田 勝啓

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「アビエイター」(こちらで感想を)を観て「ハワード・ヒューズってよくわかんないな」と思い、本屋にならんでいたこの本を読んでみました。

事業家として映画製作者として最高峰を極めた人だけど
その謎に満ちた生活から、生前から
「伝説の人」としてさまざまな噂の流れていたという彼。

この本はそんな彼の人生から『飛行機との関わりを主体にしたもの』『飛行機の次に情熱を注いだ映画と女性のことにも触れたが、晩年の「奇怪な」と形容していい生活についてはごく簡略にまとめた』(以上、本書のあとがきから)という評伝。

ハワード・ヒューズは複数の事業を並行していたので、この本の流れも時代に沿ってではなく、その「事業別」に章が分けられ、ゆきつ戻りつ進む。
著者は航空ジャーナリスト/編集者であり、なるべくフラットな筆致で彼を描こうとしている。

ヒューズは19歳で父の遺産を相続し、ヒューズ・ツール社という工具会社の持ち主となる。カリフォルニアのアンバサダー・ホテルに寄食し、ノア・ディートリッヒという財務関係の腹心と出会い、事業に本格的に踏み出す。

彼はまず映画の世界に進出した。
第1作こそ興行的に失敗したものの、第3作「美人国二人三脚」が大ヒットし、映画製作者として知られるようになる。

さらに航空機映画の金字塔「つばさ」に刺激を受け、
45~50機の「ホンモノの」航空機を調達し(このあたりの記述はマニアックだ)、第一次大戦を舞台にした航空映画「地獄の天使」の製作に乗り出す。
撮影中に自ら墜落(おそろしいことにこれが最初であっても最後ではなかった)、3人のパイロットの死亡、トーキーへの撮りなおしによる予算超過など数々の困難をかかえながらも映画は完成。
大ヒットする。
さらにギャング映画「暗黒街の顔役」でも高い評価を得るが、離婚した夫人への慰謝料などから一旦映画製作から手をひく。

「地獄の天使」の撮影中にパイロット・ライセンスを取得し、
自家用機シコルスキーS38を入手する。
このあたりからヒューズの「金に糸目をつけない」飛行機集めが始まるのだが、
本書によるとその数最大時で50機ほどという。途方もない。

その後ヒューズH-1という高速型の陸上機で当時の速度記録を達成。
だがこの時「ベストタイムを出すために」燃料以上に乗りすぎ、
不時着して難をのがれる。

さらにH-1を長距離型に改造してアメリカ大陸横断の記録を2度にわたって樹立。ロッキード・モデル14で世界1周の早回り記録を立て、リンドバーグと並ぶ「空の英雄」となる。

第二次大戦時に陸軍より偵察機、大型輸送機の2つのプロジェクトを受注するが、これもヒューズの「凝り性」が災いして納期が遅れに遅れ、とうとう大戦中に間に合わなくなり、大きな損害を与える。
中でも巨大飛行艇「H-4ハーキュリーズ」、またの名を「スプルース・グース」(木製の飛行機としては当時も、そして今も前人未到の翼幅97.8メートル)はその偉容とともに「飛ばなかった」(試験飛行1回のみ)飛行機として有名。
大戦後、軍の予算を適正に使わなかったとの疑いでヒューズはアメリカ上院の公聴会に呼び出しを受ける。
映画「アビエイター」でもハイライトとなったこの場面。
ヒューズは対抗馬のブルースター議員のスキャンダルをあばきたてることで
問題をうやむやにし、公聴会を切り抜ける。

ここでわかるのがヒューズ社の会社としての不安定さだ。
当時TWA(トランス・コンチネンタル&ウエスタン航空会社)を手にし、
本来ならもっと確実な事業展開で航空業界に確固たる地位を築くべき時期。
それにそうできたはず。
だがヒューズの個人的情熱で事業としては疑問だらけの巨大飛行艇に入れ込み、
もう1つの仕事の納期まで遅れ、「戦時のもうけ時」を逃す。
この時期を逃さなかったロッキードやボーイングとヒューズ社とのその後の差は歴然としている。

映画「アビエイター」はこのあたりまで、あとは晩年のヒューズの奇怪な生活(強迫神経症が悪化し、誰とも会おうとせず、ホテルの部屋に閉じこもっていたという)を描いていた。
この本ではそうなりながらの事業展開、TWAを失いながらもさらに巻き返しを図る姿も描いている。

事業家としては「もうからない仕事」に深入りしすぎ、決してほめられないヒューズ。

この本では彼のそんな「冒険家気質」が
革新的な飛行機(その後の「主流」にはならなくても
エポック・メイキングな記録を生み出した「ハミ出し」た機体)
を生み出したとしています。

でもこれってどうなんでしょうね。
かなり美化してるような気がします。

晩年の極端な秘密主義からその派手な人生のわりには
資料の少ないヒューズ。

興味深い人物なのかもしれませんが、
「あの時代だからこそ」の人という感じがします。

けっこう疲れる本でした。

(読了日 2005/4/6)







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