フィリップ・K・ディックというSF作家をご存知だろうか?
「ブレードランナー」「マイノリティ・リポート」といった映画の原作者として知られ、形而上学的・宗教的な側面にまで及んだそのSF作品は多くのファンを持つ。
その不可思議な発想に彼のドラッグ・カルチャーへの接近が語られることもあるが、これはそんな側面をクローズ・アップした人気作「暗闇のスキャナー」(創元推理文庫、4年前にHPでこういったレビュー記事を書いたことがあります)の映画化。

原作の救いのないまでの暗さを知っていただけに怖さ半分といった感じだったんですが、観てみました。

スキャナー・ダークリー(2006年 / アメリカ)

scanner_darkly.jpg

写真クリックで公式サイトへ(音声が流れます)

監督・脚本:リチャード・リンクレイター
原作:フィリップ・K・ディック
声の出演
キアヌ・リーブス
ウィノナ・ライダー
ロバート・ダウニーJr
ウディ・ハレルソン
ロリー・コクレン
ほか

(あらすじ goo映画 )
「物質D」と呼ばれる幻覚剤など、ドラッグが蔓延している今から7年後のアメリカ。覆面捜査官のボブ・アークターは「フレッド」というコードネームで、「物質D」の供給源を探るおとり捜査を行なっていた。普段は「スクランブル・スーツ」に身を包んでいるため、同僚すら彼の正体は知らない。ボブは捜査と監視のためにジャンキーのバリス、ラックマンと共同生活を営み、さらには売人のドナと恋人関係にまでなっていたのだが……。

変わったつくりになっている。
リチャード・リンクレイターが採用した手法は実写ではなくアニメで、それでキアヌ・リーブスをはじめとした俳優陣に「似せた」キャラクターを表現している。そのタッチは日本のアニメとも「スパイダーマン」「X-MEN」といったアメコミとも違う、ヌメヌメとした気持ち悪い画面だ。視界そのものに「霧」がかかっているかのようなこの不安定な画面は主人公たちが耽溺したドラッグの影響を現しているのだろうか。

原作どおりボブ・アークターとジャンキーのバリス、ラックマンとのだらだらしたアパートでの生活、さらにそれをビデオテープに録画して監視する「フレッド」の場面と二部構成になっている。
おかしいのは「フレッド」としての彼が画面で「自分=アークター」を観るうちに「あいつ=ジャンキー」としてどんどんアークターを客観視していき、次第に自他の区別、自分のやったことか否かの区別すらあやふやになってくる。
これはそういった状況そのものからくるストレスから、本来麻薬捜査のために摂取した「物質D」に必要以上にのめりこんだせいもあるだろう。
卵が先なのか鶏が先なのか。
そんな麻薬とのかかわり、幻覚シーンが執拗に描かれ、
このあたり好みがはっきり別れるだろう。
むしろキライな人のほうが多いかもね。

全体のペシミスティックな雰囲気、ジャンキー達への無反省な共感、
アンチ・ドラッグというにはあまりにもひ弱な定まらない視点など
そういった部分まで含めて原作におそろしく忠実だ。
もう持っていない原作の内容まで思い出してしまった(笑)。
その意味でもリンクレイターをはじめとした製作陣の原作への思い入れを感じさせる作品。

まったく予備知識なく、これを観た人がどう思うかというのはちょっと聞いてみたい気がする。
豪華な俳優陣だけどあえてアニメにしたのは「リアルにしたくなかった」等なんらかの理由もあるんだろうか。







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    1. スキャナー・ダークリー

      デジタルロトスコープアニメーションという名称が付いた手法だが商標とか特許とかの関係だろうか。何でも名前を付けて登録するのが商業主義アメリカだからね。
      というわけで、この映画は近未来に横行しる麻薬を取り締まる囮捜査官が、その麻薬に溺れてしまう話だが、背景に……

      トラックバック by 八ちゃんの日常空間 — 2007/1/1 月曜日 @ 8:34


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