山田詠美の書く恋愛小説には多くのファンがいる。それはわかっていたんだけど、自分としては「踏み込めない」部分を感じてなかなか読めなかった。
だけどある人に薦められて「トラッシュ」(文春文庫)を読んでみた。今日はその感想を。

ココはニューヨーク在住の日本人。リックという黒人のBFとその息子ジェシーと一緒に暮らしている。ジェシーは母親としての役割をココに求め、ココはそれを受け入れられないで二人はあまりよい関係ではない。それだけならいいのだがリックとの間も、彼の飲酒癖がひどくなるにつれ、よいものではなくなってくる。リックと暮らすことで自分を変えてきたココ。だがそれがもう耐えられないまでに決定的に「変わって」しまったとき、元の無邪気な女の子に戻るわけにもいかず、ココは独り立ちつくす。
ココに言い寄ってくる男の子がいる。ランディというまだ21の学生だ。彼に心が傾くが、それがリックとの関係に絶望してのことなのか、それとも本当に自分が求めていることなのか、ココは迷い続ける。
そして・・・。

非常にストイックな文体。基本的に「マジメな女性」であるココを主人公に選んだことで、ベッド・シーンもあるけど別にいやらしくはない。むしろ彼女やリック、ジェシー、ランディらの感情を丁寧に書いている印象が強い。なにに近いか考えてみたがこれはもうテリー・マクミランなどのアメリカの女性作家の作品と変わらない目線で書いている、と言ってしまってもいい作品なのかもしれない。クールでそれでいてマジメ。
ココの友人関係も ゲイで自分の恋愛関係に悩むバッキー、ダリル、年下の男の子と不倫を楽しむメアリ、ココの昔のBFグレゴリーと出てくるが、彼らに共通しているのは「個としての自分がしっかりとあること」。それは大人であるということでもあるが、同時に孤独に耐えなければならないということでもある。
そういった意味では大人になりかけのジェシーはまさに「中途半端な存在」なわけだが、彼も自分にGFが出来ることで、父親とココ、そして母親(リックとは離婚)との関係をまた違う目で見ることができるようになり、ココとの関係も変わっていく。このあたりは読みどころ。
また恋愛で人間の、特に女性の心と身体がどんなに変わるか、も書いている。一度決めてしまうと前の男のことは全て「過去」になってしまうのだ。そのあたりでいつまでも「女々しい男」リックとの違いは鮮明だ。
後半は新しい生活に踏み出したいココと彼女に降りかかる「ある出来事」について書いている。
これについてはもう読んでもらうほかない。

全体的な感想。片意地をはって「かっこつけて」生きてる人がたくさん出てくる。
でもこういう生き方ってやっぱりかっこいいし、憧れる部分もある。
特にココが「幸せになるために」下す決断については、感銘を受けた。
山田詠美さん、見直しました。エッセイとはまた違う世界ですね。
尚、「trash」というのは「くず、ゴミ」といった意味だが、山田詠美が逆の意味でこの言葉を使っているのは明白。







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