さてネットできなくなってから映画も観れてるし、本もわりと読めてます。たまにはこういうのもいいですね。本は移動中に読めるものということで文庫本が多いかなぁ。
「バカの壁」の次はこれ。

「クミコハウス」 素樹文生 著(新潮文庫)

素樹文生(もときふみお)はアジアに魅せられバックパックで旅から旅へと放浪する、そんな日本の多くの若者の一人だ。「上海の西、デリーの東」もそうだったが、この本も短い、たたきつけるような文章と、著者の撮った各地のスナップ写真が強烈なコントラストを放つ。

特に印象に残ったエピソードをいくつか。
「カルマ落とし」。初めて海外に出たという学生に対して、旅なれた先輩たちが「これはいらない、あれもダメ」と次々と荷を軽くしていく。最終的には25kgあった荷物が3kgほどにまで減ってしまうのだが、それを皆で「よかったな」と褒めつつも、「オレは、知らないよ」と内心で舌を出す著者。
「ハロー、ジャパニ」。インドで妙にフレンドリーな客引きがかけてくる言葉。たいがい大麻や売春などのお誘いなのだが、著者が珍しくもひっかかってしまったのは「マグロ、トロ」の掛け声。相手は地元の漁師だったのだ。だがこれにもチューブ入りの単なるワサビが法外な値段だったというオチがつく。
「ヤンゴンの市場にて」。ミャンマーのヤンゴンでストリートチルドレンの少女にふとしたいたずら心から2000円(かの地の月収の半分ほどという)のワンピースをプレゼントする。少女は驚きのあまり、感謝を言葉にすることもできないが、その後友達にその話を言いふらし、著者らは子供たちに「僕にもくれ」とつきまとわれる。
表題の「クミコハウス」というのはインド人と結婚した女性が現地に開いた日本人バックパッカーがよく集う宿のこと。ここで著者と仲良くなったのがギターの弾き語りが得意なタカシ。彼は幼い頃の最初の記憶として「人の世に絶対というものが一つだけある。それは人が死ぬということだ」ということを教えてくれた教師の話をする。それから大麻をやっていた学生Nがハウスで浮いている「しゃべらない男」からもらった薬になにか混ぜられていたらしく「死ぬ、死ぬ」と錯乱するエピソード。Nはクミコさんに頬をはたかれ、一喝される。彼がうわごとのようにしゃべっていた「見える風景」というのがクミコハウスに置いてあったヨガの本と一言一句同じだったというのも、なんとも。
最後のエピソードは伝説の女性「ミドリさん」。日本で赴任先の校長との不倫ビデオが流出して、職を失い、裏ビデオに出るようになり、その後インドに渡る。「日本が懐かしくなるといやだから」と白人男性の客しかとらないという彼女。著者にその話をする彼女には微妙な屈託があるが、話を聞く著者にもそれがあったらしいことが言葉の端々にうかがえる。







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