updated(first) | 10/02/2002 | last updated | |||
updated(3rd) | 01/28/2004 |
特集 : つかこうへいとその世界(1)劇作家としてのつかこうへい
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(2)小説家としてのつかこうへい (1)では劇作家としてのつかこうへいを取り上げました。 こちらでは小説家としてのつかこうへいへの評価、 それから彼の作品から僕の好きな作品を何点かピックアップしてご紹介します。
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舞台「いつも心に太陽を」を小説化。 美しい元オリンピック候補シゲルに惚れてそばで尽くすようになった牛松。そして今、時間のとまった酒場で、自分と同じ、秘めた「愛」を生きようとする息子に父親として語りはじめる。 男同士の同性愛を描いたある意味でつか演劇らしい作品。 「ロマンス」と改題されて大分つかこうへい劇団で再演された。 |
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旅回りの大衆演劇一座「一の瀬花之丞一座」。そこの座長は自分の女房レイ子を劇団の男と浮気するようにけしかけ、それをエネルギーに「芝居に活力を!」と叫ぶ困った存在。 今回もヘタな歌手ジミーにレイ子をあてがい、イビリ、つねり、いじくり、周りの連中もそれに引きづりまわされる。 二人の「究極の愛」をナルシスティックに描く、とんでもないエネルギーのある作品。 小説版では一座の役者雄二が旅先から病床の恋人筆子に宛てた手紙、という形式をとっている。 この舞台は映画化もされ、やはりつかにとって代表的な作品の一つ。 |
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このほかに「つかこうへい傑作選」(メディアファクトリー)の第7巻などでも比較的入手しやすいかもしれません。 |
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舞台ではなく小説オリジナルで発表され、志穂美悦子主演で角川から映画化された。つかも執筆時点で志穂美を念頭に置いていたという。 昭和35年、神戸、六甲。貧しい教会のシスター、今日子は2人の男に想われていた。一人は極道神竜組の二代目・晴彦。もう一人は警部補、神代(くましろ)。神竜組は組員全員がクリスチャンになるなどなみだぐましい「努力」を。だが今日子の脳裏からは1度会った「ある男」の姿が消えない。 時は過ぎ、晴彦と結婚することになった今日子。だが結婚式当日、晴彦は兇刃に倒れ、今日子は神竜組の跡目をつぐことに。そこに運命を感じた「あの男」がまた現れる。 小説版では神代の妻がその娘に宛てた手紙という形式をとっている。 地の文やシスターの使う丁寧な言葉と、ヤクザの使う粗野な言葉との対比がなんとも面白い。 |
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「大人と子供のための童話」と題した短編集。4編を収録。 表題作はある架空の街の郵便局のお話。 そこは郵便物を勝手に開けてしまい、中身を読んではその内容を添削し、「これは届けない方が良い」と判断したら届けずに局内にしまってしまう。とんでもない話なのだがこの「童話」ならではののんびりとした語り口といつものつからしい「セリフの間合い」だけで読んでいる間は「こうであって欲しい」という世界を読んでいるような気さえしてしまうかも。 原典は舞台版の「郵便屋さんちょっと」(シナリオ未見)です。 |
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つかこうへいや彼の周囲の人々が「つかこうへいの世界」をいろいろな角度から語りつくした、つかこうへい本の一つ。 内容は。 「『蒲田行進曲』(秘)演出日記」。 中でもヤス役を長谷川康夫にするか、平田満に代えるかでギリギリまで悩んだあたりが圧巻。演出家の「いい演技を待つ粘り」というのはすごいものだ。 別役実による評論「固有名詞の文体」。 平田満、風間杜夫へのインタビュー。 別役とつかの対談。同業者ということであっという間につっこんだ難解な演劇論に突入してしまう。つかが別役を先輩としてきちんとたてているのもわかる。 シナリオを3本収録。「サロメ」、「弟よ!」、「寝取られ宗介」。 「つかこうへい自作年譜」。これは本人が書いただけあってひねくれてて普通の年譜では書かないようなことばかり書いてある。 また次の平田満による「つかこうへい作品上演一覧」もこの当時までのつかこうへいの作品についてコンパクトに知れる便利な資料。 |
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注意:ここで語られているのは長「島」茂雄の物語です。実在の人物と同一の氏名の人物も多数登場しますが、この物語は全てフィクションです。 満員の後楽園球場。世紀の大スター「長島茂雄」を狙ってライフルのスコープを覗く目が。 「長島は死ななければいけない。長島が長島であるために」 長島の故郷とされる和歌山県の「長島村」(村人の顔がみんな長島)、そこに伝わる「ジンギスカンの謎」とは? 実在の長嶋を上回る奇妙奇天烈な「長島語録」、それに振り回され、やがて狂っていく野球界の人々。ストップ・モーション、逆送りなど小説どころか全ての物理法則を無視して繰り広げられるパワレル・ワールドはもはや「つか世界」としか呼べない。 徳光一夫、村山実、沢村貞次、江夏豊、王貞治など球界の大スターたちの友情出演(ウソ)も感涙ものの超巨編。 あなたが野球好きなら、巨人ファンでもアンチ巨人でも楽しめることうけあいのギャグ小説。 |
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*「つかこうへい傑作選」(メディアファクトリー)の第5巻にも収録されてます。 |
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舞台「幕末純情伝」を元に大長編として構想された小説。つかならではのドラマツルギーに支配されたこの世界は歴史上の史実にはまったく拘束されていない。通常の小説のジャンルにあてはめるのは無理なのだが、あえていえば「メタフィクション的な手法をつかって歴史で遊んだ小説」ということになるだろうか。 初出は角川書店の「野生時代」。 その設定は。 沖田総司は女で勝海舟の妹。労咳もちで京都九条の「二ツ川」で捨てられていたところを勝家に拾われたというが、その出生にはある秘密が。 一方坂本龍馬。土佐から江戸へ遊学し、勝と知り合い、「デモクラシーとは女や百姓が自分の言いたいことを言える世の中にすることじゃ」と大法螺を吹き続ける無頼漢。 新撰組になるべき連中は武蔵国日野のくいつめもので龍馬に感化されてそれぞれ自分の希望を持っている。 近藤勇はレストラン、土方歳三は単なる女好き、総司と強引に恋仲になってしまう、山南敬介はクラブの経営者、山崎蒸(五助)は床屋、大川弥一は教師、留吉はカメラマンに憧れている。 関取に憧れる高野四郎が「京都に行きたい」というのでみなで新撰組の募集に応募し、乱世の巷へ。 また総司の出生の秘密を知るものたちは彼女を亡き者としようと闇の亡者「死間衆」を呼び出す・・・。 どうでしょう? これだけでももう充分に「わけのわからない」世界なんですが、つかは歴史上の人物の「名前」だけをいただいて「つか世界」のキャラクターとしてしまっています。これは彼の舞台、小説ではよくあることなのですが初めて見る方は驚くでしょうね。 だが一種独特の熱気を伴った小説としてハマる人には強烈にハマる作品ではないだろうか。 特に若い人にお勧めできる。 |
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「龍馬伝」第2巻。 「死間衆」との戦いに生き残った総司。土方歳三とも別れ、何度も無邪気に言い寄ってくる「あの男」坂本龍馬がだんだん気になってくる。だが龍馬は肝心なところで妙に理想が先に立つ不器用な男で二人の関係は今ひとつ進展しない。 第1巻に続いて史実にはまったく拘束されない「つか版時代ロマン(歴史ファンタジー)」。あまり目くじら立てず楽しむしかない作品です。 新要素としては。 米国総領事ハリスは日本人妻梅香の影響で日本にベタボレ、デレデレの亭主。 西郷隆盛は「濃い気」の持ち主で龍馬を尊敬しつつも、彼の理想は理解できずに現実的な舵取りのため、「龍馬も殺せ」と言い放つ。 芹沢鴨はおだやかな人柄で新撰組の大黒柱。 徳川慶喜は龍馬に憧れ、公武合体策にものる。 事件の起こる順番も独特で、どうも「現代の日本から見たありえる世界、事件」をどんどん盛り込んでしまった気配がある。 大政奉還がなる前に廃藩置県、議会、憲法の具体的な話が出てきたり、デモクラシーの手本アメリカ合衆国が訴訟王国になってしまったのをなぜか「知って」いたり。 このあたりの呼吸も舞台で見ると不思議に納得できるのだが。 |
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つか版「龍馬伝」の第3巻。 この巻ではついに大政奉還が実現し、時代は明治へと変わっていくのだが、相変わらず登場人物たちの「業」「興味・関心」は極私的なものにかたより、「日本の未来は男と女の愛で決まる!」というつかの理念は揺るがない。 大政奉還の際、将軍慶喜を切腹させ、帝(明治天皇)に刃を向けてすごんだことが後で問題になり、龍馬排斥論は長く尾を引くことになる。そんな中、龍馬は総司を捨て別の若い女と結婚することに。 新撰組の連中も生き残り、「野望篇」で揚げていた「夢」をみな実現させる。一人土方だけは榎本武揚らと北海道の地に「理想の地」をつくるという新しい夢に邁進しているが、みなおだやかにそれぞれの日常を過ごしている。 総司はといえば龍馬と別れたあと、クラブ(女性が出てきてお酒を楽しむあの「クラブ」)「花園」のママとなってうつうつと楽しまない日々を送っている。 龍馬は、そして総司はどうなってしまうのか・・・。 最終巻ということでつかは惜別の思いをこめ、舞台とはまったく違う世界を描き出す。 そこで語られるのはもはや歴史ではなく、「男と女の愛」そのものだ。 龍馬の不器用な生き方、そして総司の激しすぎる鮮烈な純情にホロリとさせられる。 堂々たる最終巻。 |
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ショッキングなタイトルだ。太平洋戦争を舞台にしているがこれはつかの考える「演劇空間としての太平洋戦争」であって史実とはまったく関係がない。そしてそこに展開される物語は・・・。 犬子恨一郎(いぬこはんいちろう)は在日朝鮮人でありながら海軍で努力を重ね戦艦「大和」に情熱を捧げていた。彼は百合子(ゆりこ)という少女と恋に落ちるが、彼女は葬式で泣く役目の「髪島の泣き女」の家系。二人の仲は身分の壁により引き裂かれてしまう。 百合子はドイツへの秘密工作員として、恨一郎は原爆の研究にアメリカへと向かう。 二人の愛はそして日本の運命は・・・。 ここでつかはある問いを発している。 「人はなんのために戦うのか?」ということである。 国に対する愛国心は当然ある。だが戦争、しかも原爆を落とすという「決断」に至らしめるものはなにか。 それを突き詰めた結果が「人は愛するもの(ここでは男と女)のためにしか命をかけられない」という、いかにもつからしい「結論」だ。 そのために恨一郎に原爆の投下ボタンを押させるのだが、そこに至るカタストロフ、緊張感、テンションは抜群だ。 またここでつかが初めて在日韓国人としてのアイデンティティを明確にしたという点でも記念碑的な作品。 |
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女子プロレスの世界を舞台に地と汗と涙の根性世界を力技で書ききった作品。小説版では長与千種(実名で登場し、舞台では長与本人が演じたがこの役自体は架空のもの)に憧れる新米レスラー、エスケイプ・亜子が主人公。 亜子や長与千種、レフリー見習いの大介、チャンピオン、デビル・奈緒美(デビル雅美がモデル?)の独白という形で次々展開される。その語感、口調はひたすらに熱く、ストレートなものだ。 熱血青春ストーリー。 |
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「蒲田行進曲」の続編。舞台が先行したが小説ではまた違う展開を見せる。バラエティー番組などでパロディーに使われることもあったが、オリジナルの迫力はまた格別だ。 「階段落ち」のあと、小夏は苦労しながら女の子を出産する。名はルリ子。 銀ちゃんは東京に進出し、ヤスは階段落ちで名を上げ一度は主演映画の話も来るが、やはり「脇でいるべき大部屋役者」の器だったのか、うまくいかず大部屋に逆戻り。組合活動など部屋の兄貴分として振舞い始めるが、その動きは性急過ぎて次第に周りに疎んじられるようになる。小夏やルリ子ともうまくいかなくなる。いつまでも「階段落ち」のことで恩に着せ、銀ちゃんの話ばかりという男なのでこれは仕方ないだろう。 ちなみにこの小説の語り手は大部屋の若手のマコトという青年。つかは一人称の小説が得意だがその語り手を銀ちゃんや小夏、ヤスにしなかったおかげでこの小説は彼ら3人の悲哀を等距離にとらえられていて読みやすくなっていると思う。 話に戻ると。 階段落ちから5年、また「新撰組」の映画の企画が持ち上がり、銀ちゃんが京都に帰ってくる。今回の企画では沖田総司が女になって土方歳三に恋をしたら、という設定で総司役で小夏が女優としての復帰を果たす。 一方、ルリ子が白血病だと聞いた銀ちゃんはルリ子も映画に出すことに決め、彼女に彼のできる唯一の教育「演技指導」を始める。 階段から落ちるのはヤスではなく銀ちゃん。総司(小夏)、ルリ子との愛はついに最終局面を迎える。 この設定は更に改変され舞台での決定版「銀ちゃんが、逝く〜蒲田行進曲完結篇」(1994年初演)となりました。 |
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*「つかこうへい傑作選」(メディアファクトリー)の第1巻にも収録されています。 |
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神林美智子は東大理Vに現役合格して、四国・高松から上京してくる。 故郷では「妾の子」として名族神林家の中に居場所のなかった彼女。 東京はなにもかも刺激的。桂木順一郎という東大の学生運動のリーダーに惹かれ、学生運動のただ中に。 学のない機動隊の隊長山崎に言い寄られ、さらにしがない小男木下と同棲することになるなど神林の周囲は波乱万丈。 憧れの桂木と結婚の約束をし、担当教授から留学の誘いも受けるなど上昇の予感。 だが全学連の委員長に選ばれた彼女と桂木の関係は徐々に齟齬をきたしてくる。 ついには「機動隊の情報を得るために山崎のアパートに転がり込め」との命令を受けてしまう。 山崎はこの上なく優しい男だった。神林のこころを理解しようとマルクスの「資本論」を読み、フェリーニの「道」に感激し、「俺はお前のザンパノになる」と切れない鎖を切ろうともがく。 神林はそんな彼に初めて安らぎを感じ、彼の子を産むことを決意するのだった。 だがそんな安息の日々にも終わりが。 山崎が神林が自分のところに来た真意(スパイ活動)を知ってしまう。 嫉妬のあまり、赤子を神林から取り上げる山崎。 新安保改定、反対運動も最高潮の盛り上がりを見せ、神林と山崎は敵味方という立場がいよいよ抜き差しならなくなってくる・・・。 つかこうへい劇団の初期から上演されている作品を完全小説化。 「新・飛龍伝」として現在も上演され続けている。 後半の章題「わたしのザンパノ」「君は戦場、僕は恋」は舞台でのサブ・タイトル。 学生運動を直接体験した人がどう感じるのかは分からないけれど、もう現代ではありえないぐらい非常に「熱い」作品。 つかこうへいの小説家としての技量もこの時点でまた上がっているようだ。 若い頃の勢いにまかせた筆致とはまた違う「読みやすさ、成熟」が感じられる。 |
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*「COLUMN」の【観劇記 「飛龍伝」 演出:つかこうへい】も合わせてご覧ください。 |
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