ホームへ戻ります ブックトップへ updated(first) 01/15/2003 last updated

特集: フィリップ・K・ディック
     映画と原作を徹底比較! 「ブレードランナー」から「マイノリティ・リポート」まで

(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7)

 (2)トータル・リコール


「追憶売ります」

原題: We Can Remember It For You Wholesale,(1966)
(「マイノリティ・リポート」、早川書房、ハヤカワ文庫SF( amazon /bk1 )に収録。
新潮文庫「模造記憶」にも収録。)

ダグラス・クェールはしがないサラリーマン。妻のカーステンにも文句ばかり言われて生活に疲れている。そんな彼の最近の楽しみは「火星に行く」という子供の頃からの夢を実現させること。と言ってもそれは「リコール社」という会社が作り出したリアリティ溢れる「偽りの記憶」を植えつけてもらって、火星に行ったつもりになれるというものだった。
クェールはリコール社でマクレーン社長にサービスの詳細を説明される。彼の希望するストーリー、火星に潜入した秘密捜査官というストーリーを裏づけ、補填するリアルな小物も用意され、またこの会社に来たという記憶は全て消去され、火星への旅が本物としか思えないものになるだろう、とのこと。クェールは納得し、処置室へと入る。
その結果は意外なものだった。なんとクェールは本当の火星の秘密捜査官(インタープランという組織に所属していた)で、極秘任務後記憶を消されていた。そして「火星に行きたい」という希望、それはおそらく秘密捜査官となった動機でもあったのだろうが、だけは脳から消しきれずにリコール社を訪ねた、というのだ。
マクレーンらは震え上がり、クェールに丁重に帰っていただく。そこへインタープランが接触してくる。
「あんたがいまやわれわれにとって不都合となるだけのことを思い出したこと、それもわかってるんだ。」
火星に行ったという記憶、平凡なサラリーマンだという記憶、二つの記憶が脳の中に共存し、クェールは混乱し、カオスな状況にのまれていく。

これもディックらしい作品。記憶の不確実性、認識論、世界自体の不確実性などディックの作品のキーワードが詰め込まれている。タマネギの皮を剥くように現実世界が一つ、また一つと崩壊していく。そのさまはスリリングと感じられるかもしれないし、ユーモラスで笑えると感じられるかもしれない。
形而学的なテーマを扱っているが最後のオチもきれいに決まって後味は軽い。

さて「トータル・リコール」はこの原作をどう料理したか。次に見てみよう。


Laboem02



Laboem01
「トータル・リコール」(1990年、アメリカ)

監督:ポール・ヴァーホーヴェン 
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、レイチェル・ティコティン、シャロン・ストーン、 マイケル・アイアンサイド、他

ダグラス・クエイド(アーノルド・シュワルツネッガー)は最近毎晩火星に行く夢に悩まされている。妻ローリー(シャロン・ストーン)にはあきれられているが、クエイドはそのことが気になって仕方がない。地下鉄の広告で見かけたリコール社という会社に行ってみる。社長のマクレーン氏はとくとくとサービスについて語る。人間の記憶を操作することで本当としか思えないリアルな経験ができる。魅力的なプランがたくさん、と。クエイドは数あるプランから「火星」「秘密捜査官」「美女と結ばれる」という組み合わせが気に入り、それを申し込む。シートに横たわり、眠りにつくクエイド。

「夢」の世界はすごいものだった。クエイドは火星での冒険に興奮する。
目覚めて帰途につく。どうも様子がおかしい。同僚ハリーに出会うが彼は「火星でのことを喋っただろ」と突然5、6人で襲い掛かってくる。反射的に彼らを射殺してしまうクエイド。混乱のまま自宅へ戻る。
ローリーに事情を話すが、室内で物陰から突然撃たれる。ローリーだ。
あなたのこれまでの人生は植え付けられた記憶だった。火星であなたがやったことは誰にも知られてはいけない秘密だった。私はあなたを監視するために雇われた女だ。
ローリーの恋人リクター(マイケル・アイアンサイド)を中心としたチームがクエイドの追跡を始める。アクションに次ぐアクション。

また目覚める。リコール社の処置室だ。スクリーンにはクエイドの姿をしたハウザーという男が映り、「君は俺だ。コーヘイゲン火星長官のもとで働いていた。それは間違いだった。あとを頼む。」と言う。真実を知るため火星へと向かうクエイド。追うリクター。

火星の空港で変装しているのがバレ(このシーンは太ったおばさんの顔がパックリ割れて中からクエイドが現れる。CGをむやみに贅沢に使ったシーンだ。)、リクターの発砲により防壁に穴が開き、大量の酸素が噴出してしまう。
リクターはコーヘイゲンに呼び出され、「お前は何も考えなくていい。とにかくクエイドを追え。」と言い渡される。クエイド(ハウザー)の頭の中にあるデータが反乱軍の手に渡らないようにしなければならないのだという。一方クエイドはハウザーの指示を元にメリーナというヌード・ダンサーを探すことに。ベニーという男の白タクを雇い、彼女の勤める「最後の楽園」へ。
メリーナ(レイチェル・ティコティン)はハウザーの恋人だった。記憶を失ったことを彼女に説明するがわかってもらえず、追い返される。
ホテルで休んでいると、突然リコール社の研究員が現れ、「これまでのことはあなたがリコール社のベッドで見ている夢だ。あなたは夢の中毒症状にかかってしまって目覚められなくなってしまったので我々が助けに来た」と。ローリーも現れ正気に戻ってと懇願する。クエイドが戸惑っているとそこへメリーナが現れ、ローリーとのつかみあいの争いを始める。

反乱組織の長クアトーと面会する。ハウザーはピラミッド鉱山でリアクターというエイリアンが作った装置を発見したのだという。次の目的がはっきりするが突然ベニーが裏切り、コーヘイゲンに捕まってしまう。ベニーも敵方の人間だった。
また装置に縛り付けられ今度はクエイドとしての記憶を消されようとする。
だがまたも彼は脱出に成功する。
「俺はクエイドだ。ハウザーとしてではなくクエイドとして生きる。」
コーヘイゲンやリクターとの最後の戦いの時は迫る・・・。

ディックの原作からは大幅な改変を加えている。ほとんど別物といってしまっていいと思う。クエイドをあのシュワルツネッガーが演ずるということで「考えるよりもアクション」の映画になっている。ポール・ヴァーホーヴェンは相当にグロイシーンも盛り込んでいて、「ウォッ」という感じの映像には事欠かない。物語の展開はスピーディだが何度も「これは夢でした」と二転三転するストーリーは相当に破綻している。
まぁショッキングな映像とアクションの連続でそれなりに楽しめる作品であるのは確か。
シュワルツネッガーはこういう「ハチャメチャSFアクション」非常に多いですよね。マイケル・アイアンサイドのしつっこさも汗臭くていい感じです。
シャロン・ストーンの出世作でもあります。


ホームへ戻ります ブックトップへ