つかこうへい演出の「飛龍伝」を観てきました。

東京・青山劇場
出演:広末涼子、筧利夫、春田純一、他多数

<ストーリー>

日米安保改定を控え、学生運動と機動隊の対立が暴発寸前にまで進んでいた1960年代末の東京。
四国・高松の名家から東大理Ⅲに合格して上京してきた神林美智子(広末涼子)。
さえない眼鏡姿で全共闘の闘士ネズミと知り合い、身体を重ねるがその前に全共闘のリーダー桂木順一郎(春田純一)が現れ、彼女の正体に気づき、「俺の女になれ」とネズミから彼女を奪う。偶然か必然か彼女は全共闘40万人の委員長となり、血で血を洗う学生運動のただ中に身を投じることになる。

機動隊の隊長山崎(筧利夫)が彼女の前に現れる。
中卒で女とやることしか考えない粗暴な男だが「愛嬌」のあるその男と会うことに神林は桂木には感じられないやすらぎを感じるようになる。

全共闘内でも神林の人望は増していき、かつて三里塚で仲間の奥さんを見殺しにしたとの嫌疑をかけられた桂木との溝は深まっていく。学生運動を裏切って自分の就職がうまくいくことこそが「二人のためだ」と言い張る桂木。ついには全共闘の総会で除籍寸前にまでなるが、一つの「条件」で許される。神林を「人身御供」として山崎のアパートに送り込み、11月26日にあるという国会前のデモ時の機動隊の配置図を盗ませるというものだった。

「あたしをなんだと思ってるんだ」
神林の叫びも空しく策は実行にうつされる。

山崎は突然転がり込んできた神林を決死の看病と、同時にもちろんやってしまうのだが、そのおかしいまでの情熱、愛情は今まで神林の味わったことのないものだった。
全共闘の委員長と機動隊の隊長。なんともアンバランスな二人の関係はありえない「つかの間の平和」を作り出す。

<感想>

この作品はつかこうへいの初期からの代表作の一つだが、観た限り、ストーリー・ラインは1997年に出た小説版「飛龍伝 神林美智子の生涯」を踏襲している。石田ひかり、牧瀬里穂、内田有紀もやっている舞台だそうだけど僕ははじめて観ました。

最初、眼鏡に黒のジャージ姿で出てくる広末は声も出ていないし、まるで魅力がない。ネズミ役の人がちゃんとセリフを言えてないのもつらかった。
学生運動にはオカマちゃん、西郷さんのような九州出身の男、力士、ジャズマニア、俳句を詠むのが趣味のつるっぱげの男(つーか年齢的に学生じゃない(w))と個性派を並べているし、集団でのキメキメのダンスシーン、殺陣のレベルはさすがに高い。
だが本当に演劇としての魅力が出てくるのは春田氏、そして筧利夫の登場からだろう。それまでは一本調子でどなっているだけだった周りの役者、地声なのかもしれないけどか細かった広末らが一気に生き返ったかのようだ。筧さんが出てくるところだけは笑いが起きていた。
彼も黒のジャージで出てきて、後半はこの二人の愛と憎悪の相克がテーマとなるんだが、ほとんど出ずっぱりだし、着替えのいらないこの衣装というのはありがちだけど、アリなのかな。ちなみに小道具もほとんどなく、青山劇場の階段は活用されているけどしごくシンプルなセット。群集シーンで空間をうめていた印象が強い。バック転やフライング・キックなど「体技」を見せていた人たちのキレは素晴らしかったけれど。

終盤は子供(男の子)まで生まれた二人の前に桂木が再び現れ(それにしても最初から11月26日と言っているのに二人に子供ができるまで作戦が延びるところなど、どう考えてもつじつまが合っていない)、神林は「スパイ」を行うためにお前の前に現れたのだと暴露する。
この「言ってはいけなかった一言」から始まる山崎の狂気スレスレの暴走とそれに耐える神林とのほとんどSM的な罵倒、セリフ、暴力が後半の山場なんだけど。ここは二人ともがんばってましたね。
「この子に対してお前はお父さんとお母さんが愛し合って生まれてきたんじゃない。と言うんだ! 言え!」と泣きじゃくりながら叫ぶ筧さんの姿には鬼気迫るものがやはりありましたねぇ。

やがてやってくる運命の11月26日。
次々と倒れていく同志たち。
「お前は俺が殺す」
と約束した愛し合う二人に運命のときは迫る。

後半盛り返して、予想以上に面白い舞台でした。
それにしてもおそろしいまでに「昭和」としか言いようのない超アナクロな世界になじむのはかなりきついのですが、それを強引にもっていってしまうのは演出の力もあるけれど、役者たちの全力を尽くした「体技」あってのものでしょう。2時間半の舞台を1日2回公演というのが信じられないほどみなさんよく動いていました。でも生の舞台を観る魅力って結局これなんだな、とつくづく思います。

つかこうへいの舞台ではすごくベタな「日本の曲」が臆面もなく出てきます。
今回も広末は何曲歌ったんだろう。5曲ほど歌ってました。
ミュージカルではないんですけどつか演劇には欠かせない要素ですね。

実は3列目の左寄りの席で観れました。音響が近すぎたのと角度的にきつかったのでベストの状態ではなかったんですが、かなり間近で見れましたよ。

カーテンコールでは3回も幕が開き、ここでもダンス、歌、筧さんの「青山劇場の電気は間もなく落ちます。とっとと帰ってください。」とのサービス精神あふれる声に拍手は鳴り止みませんでした。

帰り道の宮益坂。クリスマス・カラーの街路樹がきれいでした。







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