真説宮本武蔵
司馬 遼太郎

発売日 1983/01
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真説宮本武蔵
(司馬 遼太郎 / 講談社文庫 / ISBN: 406183071 / (読了日 2004/4/11 )

知人から勧められて司馬遼太郎の「宮本武蔵」を読んでみた。
2冊あるんだけど、こちらは短編集の中の1篇。

「宮本武蔵」というと昨年のNHK大河でも使われた吉川英治版があまりにも有名だ。吉川版のヒロイン「おつう」などは史実にはまったくない人物なんだけど、完全に定着している。人々のこころに浸透したという意味ではあちらもやはりすごい作品。

対してここでの司馬遼太郎の狙いは史実から得られる武蔵像を描けないかということだと思う。渡辺幸庵という武蔵と2度会ったという老人の話が出てくるが、そういった視点から「実像としての武蔵」に迫る。

ここで出てくる武蔵は決してかっこよくはない。
武士としての栄達を必死に求めながら、関ヶ原、大阪冬の陣、夏の陣といずれも西軍につくという先の読めなさ。
意固地なプライドから法外な報酬を要求し、結果的に仕官の口を得られず、「剣客」として生きるしかなくなるなど。
「勝つため」には相手を徹底的に研究し、「勝てる」と踏んだ相手にしか勝負を挑まないこと。逆に自分の「手」は隠し、相手にとっての「急」を狙うこと。

この本でかなり力が入っているのが吉岡一門との闘い。
これも吉川版が元にしたという武蔵の養子伊織が書いたとされる吉川家の惣領清十郎、伝七郎という人物が吉岡側の資料ではそもそも存在せず、有名な洛北一乗寺下り松での決闘(吉岡一門数百人をなで斬りにしたという傑作シーン)も史実にないとのことで一蹴される。

ここで参考までにと挙げている説は一乗寺に現れたのは年端の行かない吉岡家の惣領又七郎で、吉岡一門も数人で警護していたがほとんど不意打ちのようなかたちで武蔵がバッサリと斬ってしまい、そのまま逐電した。それでも「大将を倒した」と大々的に宣伝し、そちらが流布された。
このあたりの記述は「事実でない」と書いているのに、そちらを描写するなどかなり混乱している。どちらかにしてほしいものだ。

また吉岡兵法所が閉鎖されたのは武蔵との対決から10数年後の慶長19年で一門の清次郎という者が抜刀騒ぎを起こした不始末からということで武蔵とは無関係。
これは事実らしい。

佐佐木小次郎との対決はスペースの関係か触れられていない。

司馬遼太郎の狙いは狙いとして、「見せ場」というものを削ってしまうと、面白みには欠けるかな。

(読了日 2004/4/11 )







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